新型コロナウイルス感染症の影響で、観光市場においてもプロモーションが難しい状況が長く続いていました。ようやく旅行者の動きも戻ってきて、地域外の人に向けてアプローチをしたいと考えている自治体や観光関連事業の担当者さまも多いのではないでしょうか。
しかし、コロナ前とは観光客のニーズも変わってきている今、以前と同じ方法でアプローチをするだけでは効果が出にくくなっています。今回は、アフターコロナの旅行市場の変化に応じた観光プロモーションの手法を紹介します。
下記のようなお悩みのある自治体や観光関連事業の広報・宣伝担当者さまにおすすめのコラムです。
☑現在の観光客のニーズを知りたい
☑観光プロモーションを成功させるためのポイントを知りたい
☑観光客に向けた新しいアプローチ方法を探している
■観光プロモーションとは
観光プロモーションとは、観光地に訪れる人を増やすために、地域の商品や施設、サービスの魅力を発信するなど、自治体や観光地の宿泊・飲食業者が行う取り組み全般を指します。地域を売り込むための広告やメディアへの露出だけでなく、イベントやSNSの活用など集客につながることはすべて観光プロモーションに含まれます。
地域の観光地や名産品をただ紹介するのではなく、観光客のニーズを理解し共感を生むコンセプトやストーリーで地域を魅力的に見せることが重要です。
■効果的な観光プロモーションを行うポイント
では、観光客の共感を生むにはどのような戦略が必要なのでしょうか。市場調査や地域の魅力を分析し、狙いたいターゲットと親和性の高いプロモーション手法を活用することが観光プロモーションの成功の鍵となります。
◎市場分析を行う
自治体や観光関連事業のプロモーションでの失敗は、地域のビジョンや予算などの観光計画とPRしたい観光スポット・商品だけを設定し、具体的なターゲットや他地域との差別化を意識せず走り出してしまうことが主な要因です。観光庁の発行する「観光地域づくり法人(DMO)による観光地域マーケティングガイドブック」でも、STP分析に基づく観光地域マーケティング戦略の策定が推奨されています。
STP分析とは、狙うべき市場や地域の立ち位置を明確化する観光マーケティング戦略の基盤となる分析です。セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの3つの段階で地域の提供価値を明確にしていきます。
①セグメンテーション
市場を同じニーズや性質を持つ顧客層に細分化すること
(例)観光客を年齢や性別、居住地、観光地までの移動手段、旅行相手、趣味嗜好などでグループ分けする
②ターゲティング
セグメンテーションを行って細分化された市場の中から、狙っていくべき市場・ターゲットを決定すること
(例)友人と旅行に来る20代女性客にターゲットを絞る
③ポジショニング
他の観光地域・施設との差別化を図り、観光客に対してアピールできるような自地域の立ち位置(提供価値)を明確化すること
(例)他の地域よりも観光地周辺の徒歩範囲でInstagram映えする体験施設や飲食店がまとまっていることが強み
また、観光客は年に何度も同じ場所を訪れることは少ないため一般企業のマーケティングとは別で、STP 分析を「①新規の旅行者の需要」「②すでに自地域を訪れている人をリピート客にする」という両面から検討することをおすすめします。
◎分析に合わせてプロモーションの方向性を設定する
例えば、STP分析の例として挙げた「20代女性観光客を体験施設や飲食店に誘致したい」という場合、旅行前のプロモーションとしてInstagram広告やインフルエンサータイアップ、現地では施設や飲食店をまとめた地図の配布、撮影スポットの設置などの実施が効果的でしょう。
しかし、ターゲットがシニア向けであれば雑誌や動画のような視覚的にわかりやすいメディアでのプロモーションの方が効果的です。訪日外国人向けであれば多言語対応も必要になってきますし、同じポスターを制作する場合でもターゲットによってキャッチコピーやデザインも変わってきます。このように分析で決めたターゲットやポジショニングに合わせてプロモーションの方向性を決めていくことが重要です。
参考:観光庁 観光地域づくり法人(DMO)による観光地域マーケティングブック
■現在の旅行客の状況
全国旅行支援(2022年10月~2023年12月実施)の効果もあり、鉄道旅客は90%まで回復しており、航空旅客はコロナ前を15%ほど上回る数値となっています。
旅行客が戻りつつあるもののコロナ禍を経て、安全に旅行を楽しみたいという心理から団体ツアーや友人との旅行が減り、個人旅行や家族や恋人といった身近な人との少人数旅行が増えています。同様にパック旅行の利用が減り、自ら情報収集をしてプランを立て旅行に行くケースが一般的になっています。そのため、以前よりも旅行前の誘致プロモーションが重要となります。
■おすすめの観光プロモーション手法
現在の観光客のニーズを受けて、デジタルを活用した拡散性の高い施策や、旅行への意欲が高い顕在層を狙ったプロモーションがおすすめです。ここからは、観光プロモーション手法を事例とともに紹介します。
◎観光DX
以前は現地でのプロモーションは地図やおすすめの情報が掲載された冊子が有効でしたが、コロナでリーフレットを手に取る人も減り、サイトやアプリを用いた案内が主流となっています。訪日外国人が増えてきている中、多言語化にも対応しやすいこともメリットです。
また、デジタル化をすることで観光客の位置情報や施設の予約数などのデータを収集し、今後のプロモーション活動に役立てることも可能です。
【事例】TOHOKU MaaS(トウホク マース)
MaaSとは、ICT(情報通信技術)を活用して、複数の公共交通やレンタカーなどのその他の移動サービスを統合して、検索・予約・決済などをワンストップで行う仕組みです。この仕組みと観光地の情報提供を一つにして、効率的な観光の手助けをする「観光型MaaS」が注目されています。
TOHOKU MaaSは、旅行前のプランニングから、バスや電車のフリーパスの購入やレンタカー・レンタサイクルの決済、観光施設で使用できる電子チケットなどが東北6県で利用できるサービスです。
観光型MaaSについての解説や、当社が提供するイベントや観光型MaaSに活用されているプラットフォームについて下記の記事でも詳しく紹介しています。
◎PR動画
映像は紙面よりも情報量が多く、観光地の雰囲気を伝えやすいプロモーション手法です。
数分の短い時間の中で、複数の観光地を紹介することや、グルメやレジャー、宿泊施設などの情報を盛り込むことができ、観光客に具体的な観光プランをイメージさせることが可能です。PR動画での発信を行う自治体はとても多いため、ただ制作をするだけでは費用対効果が見合わない場合もあります。話題になるよう地域出身のタレントを起用したり、斬新なコンセプトで発信をしたり、Web広告でブーストをかけるなど多くの人に見てもらう工夫が必要です。
【事例①】WEB動画シリーズ「乃木坂46久保史緒里の宮城・仙台 旅しおり」
「仙台銘菓『萩の月』」で知られる株式会社 菓匠三全さまよる地元エリアのPRを主軸にした商品や企業ブランディングの動画制作を当社が行っております。短い時間で複数のものでも印象的に伝えることができる動画の良さを活かし、菓匠三全の「ずんだ餅ぷち」を紹介しながら宮城県の名所も紹介しています。
宮城県出身の乃木坂46メンバー 久保史緒里さんを起用した8年目となるロングキャンペーンで、累計再生回数も220万回を超える人気コンテンツです。観光プロモーションでは、リピーター育成のため長期間プロモーションを行い、地域ファンを作っていくことも重要です。
当社事例として、下記のページでも詳しく紹介しています。
【事例②】大分県別府市「湯~園地」
大分県別府市では、実際には存在しない遊園地と温泉を融合した施設を「湯~園地」と紹介しているユニークなPR動画を発信。「再生100万回突破で温泉テーマパーク『湯~園地』を実現する」と発表してわずか3日で100万回再生を突破することに成功しました。クラウドファンディングで資金を集めて実際にイベントを行い、話題性のあるPR動画から実際に誘致につながった好事例です。
参考: PR TIMES 目指せ1億円超え!動画再生292万回の温泉遊園地、『湯~園地』を別府に作る!
◎インフルエンサーマーケティング
動画やSNS投稿画像の制作をインフルエンサー側で行い、インフルエンサーのアカウントでYouTubeやInstagramといったSNSへ投稿してもらうプロモーション手法です。コロナ後の旅行移動の戻りは特に20代が早い傾向にあり、Z世代に向けたプロモーションとしてSNSでの発信が効果的です。その中でもインフルエンサーマーケティングは旅行者目線で観光地の良さをリアルに発信でき、消費者の共感を得やすいという特徴があります。
【事例】道後温泉「大和屋本店」×くぼたび(インフルエンサー)
インフルエンサータイアップの中でもTikTokやInstagramのリール、YouTubeショートといったショート動画は、特に若い世代にリーチしやすい特徴があります。
道後温泉にある旅館大和屋本店は、夫婦二人旅の動画で発信するインフルエンサーくぼたび による宿泊体験レポートを公開。Instagramの自動返信ツールを利用して、限定クーポンを配信し10日で100枚分のクーポン予約を獲得しました。
参考:くぼたび 地域おこし活動大和谷本店/大和谷本店公式HP
◎IPコラボ
アニメや映画、キャラクターなどのIPコンテンツとコラボレーションして集客を行う手法です。旅の写真や感想を投稿されることが多く、話題になりやすいプロモーション手法です。
ただ人気コンテンツとコラボを行えばよいというわけではなく、IPコンテンツのファンにプロモーションを好意的に感じてもらい、地域に興味を持ってもらえるよう地域と関連性のあるコンテンツを選ぶことが重要です。作品のロケ地や関連する地域を訪れる「聖地巡礼」を目的とした作品ファンも多いです。
【事例】JR東日本 水戸エリア アニメ 続『刀剣乱舞-花丸-』タイアップキャンペーン
当社が携わったJR東日本 水戸エリアの観光キャンペーンでも、水戸の徳川ミュージアムに所蔵されている日本刀「燭台切光忠」の擬人化キャラクターの登場するアニメ『刀剣乱舞』とのタイアップを実施。ファンの心をつかみSNSで大きな話題となりました。
詳しくは、以下の事例ページにて紹介しています。
◎雑誌広告
動画やSNSなどオンラインでのプロモーションが近年注目を集めていますが、雑誌への広告出稿の効果も衰えていません。
旅行雑誌・観光雑誌は明確に「旅行に行きたい」と考えている人、車内・機内雑誌ではすでに旅行先に向かって移動をしている顕在層に絞ってプロモーションを行うことができます。このような顕在層の場合は広告を見て、行動に移す割合が高いことが特徴です。
地域ごとの雑誌、温泉雑誌、女性向けの旅雑誌など各雑誌にコンセプトがあり、旅行への興味・関心が高い人の中からさらにターゲットを絞っていくことも可能です。
【事例】福島県相双地方振興局 福島・相双地方観光地紹介
「トランヴェール」2023年7月号 「トランヴェール」2023年11月号
見開きでの雑誌広告の掲載は、PR動画同様に複数の観光地や商品を紹介できます。新幹線車内雑誌「トランヴェール」2023年7月号にて、福島・相双地方の馬の祭典ともいわれる「相馬野馬追」をメインに馬や歴史に関連する体験や商品が紹介されています。動画広告とは違い文章での補足が可能なため、紹介した場所や商品にどのような歴史があるのかなどアピールしたい点を具体的に読者に伝えることが可能です。
福島県相双地方振興局さまは、年に数回テーマ性のある記事出稿を行っています。実際に「トランヴェールを見た」と掲載施設に取材の申し込みが入ることもあり、魅力的な地域の見せ方が読者に伝わっています。
雑誌広告の基本に関する解説はこちらのコラムでも行っています。
■新幹線車内搭載誌「トランヴェール」がおすすめ
観光プロモーションにおすすめの雑誌メディアとして、JR東日本の新幹線車内サービス誌の「トランヴェール」を紹介します。
先述したように、新幹線車内雑誌はすでに移動中の顕在層にリーチするため、行動につながりやすいことが大きな特徴です。例えば、観光地へ向かう乗客は、旅先で立ち寄る観光施設や飲食店、旅行帰りに買って帰ることのできるお土産などの情報を見て実際に店舗を利用したり、商品を購入する可能性が高いでしょう。逆に帰路の乗客も旅行の余韻に浸った状態のため、宿泊施設などの情報は「もう一度訪れたい」と思っている最中に興味・関心を引きやすいです。
◎「トランヴェール」の特徴と効果
「トランヴェール」は、JR東日本が発行する新幹線車内サービス誌です。JR東日本が運行する新幹線(東北・上越・山形・秋田・北陸)の座席ポケットなどに搭載し、自由に持ち帰ることも可能です。すべての座席に搭載されているため乗客に広くリーチ可能で、閲読可能者数は月平均で約630万人に及びます。
トランヴェール閲読経験者の約3割はトランヴェールに掲載された広告を見た後に、店や観光地を来訪したり、サービス、商品を購入するといった行動をしています。このように東日本エリアの観光プロモーションに「トランヴェール」はうってつけのメディアです。
東日本の歴史・文化を紹介し、旅の気分を向上させるというコンセプトも旅行商材と相性が良いため、自治体、観光サービス、宿泊施設などの業種の広告が多数出稿されています。
旅行を趣味とするアクティブシニアが所属する会員組織「大人の休日倶楽部」の会員誌広告も取り扱っています。特にシニア層に向けた情報発信をしたい自治体・観光関連事業のご担当者さまはぜひこちらもご覧ください。
■まとめ
・観光プロモーションは、STP分析を行い、ターゲット・ポジショニングを決めてから戦略を定めるのが成功のポイント
・コロナでニーズが変化した現在、観光DXやPR動画、インフルエンサーマーケティングなどのデジタル施策や、IPコラボや雑誌広告といった興味・関心が高い客層を狙った観光プロモーションがおすすめ
・東日本エリアで観光地に向かっている最中や旅行に関心の高い顕在顧客へのアプローチは、「トランヴェール」がおすすめ
当社では、自治体や観光商材の広告・プロモーションや地域創生の課題解決に多数取り組んできました。観光プロモーションについてのお悩みは、当サイトの運営会社である当社ジェイアール東日本企画へお気軽にご相談ください。