
こんにちは、ジェイアール東日本企画「キクコト」編集部です。
今回のテーマは「インクリメンタルリーチ」です。
多メディア時代の現在、例えばテレビCMだけではリーチできないユーザーにデジタルメディアでどのように補完して増やすか、が課題となっています。その際、重要な指標となるのが「インクリメンタルリーチ」です。この記事では、クロスメディア戦略において欠くことができないインクリメンタルリーチの基本概念から具体的な測定方法まで、わかりやすく解説していきます。
1.インクリメンタルリーチとは?
インクリメンタルリーチの基本的な意味
インクリメンタルリーチとは、「インクリメンタル(Incremental)」が「増分」を意味し、リーチの増分、つまり純増したリーチの数やリーチの新規増加分を指す概念です。
もう少し具体的に説明すると、既存の広告接触層に加えて、新たに広告を視聴したユニークユーザーを測定する指標のことです。たとえば、これまでTVCMを見たことがなかった人に対して、YouTube広告を実施することで新たに広告接触が起こった場合、その追加で獲得したリーチ数がインクリメンタルリーチになります。
簡単に言えば、「上乗せされた新しいリーチ」のことです。
従来のマーケティングでは、「リーチ=広告への到達ユーザー数や到達率」として捉えられてきました。しかし、現代の複雑なメディア環境では、単純な到達数だけでなく、「どのメディアが新しいオーディエンスをどの程度追加できたか」という指標が広告予算の有効活用を判断する上で重要になってきているのです。
従来のリーチとの違い
従来のリーチ測定では、各メディアのリーチ数を単純に足し算していることがありました。たとえば、テレビCMのリーチが60%、Web広告のリーチが20%だった場合、合計80%のリーチがあると計算していたのです。しかし、これは明らかに間違いです。
なぜなら、テレビCMを見た人の中にも、Web広告に 接触する人がいるからです。この重複している部分を「オーバーラップ」と呼び、正確なリーチ測定においては、この重複を除外する必要があります。

インクリメンタルリーチによる正確な測定
インクリメンタルリーチでは、このような重複を適切に処理します。上記の例で言えば、テレビCMをベースメディアとして60%、Web広告で獲得した新規ユーザーが20%だったとすると、総リーチは60%+20%-10%=70%、インクリメンタルリーチはWeb広告-重複となり20%-10%=10%が正確な数値となるのです。
この考え方により、各メディアの真の価値を正しく評価できるようになり、無駄な重複投資を避けながら、効率的に新規オーディエンスを獲得することが可能になります。
なぜ今注目されているのか
●メディア環境の多様化と複雑化
現代の消費者は、テレビ、DOOH、SNS、配信サービスなど、さまざまなメディアを日常的に利用しています。電通の「2024年 日本の広告費」 によると、インターネット広告費は3兆6,517億円に達し、テレビメディア広告費の1兆7,605億円を大きく上回りました。
このように多メディア化が進む中で、従来の単一メディア中心の測定方法では、現実的な効果測定ができなくなってきているのです。
出展:2024年 日本の広告費
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2025/0227-010853.html
●広告予算の最適化ニーズの高まり
企業の広告予算は限られており、その中で最大の効果を得るためには、どのメディアがどの程度の新規オーディエンスを獲得できるかを正確に把握する必要があります。
特に、テレビCMのリーチが頭打ちになっている現在、デジタルメディアがどの程度のインクリメンタルリーチを提供できるかが重要な判断材料となっています。
●プライバシー規制の強化と測定技術の進歩
GDPR(EU一般データ保護規則)施行 やiOS14.5のATT(App Tracking Transparency)導入など、プライバシー保護の観点から従来の個人レベルでの追跡が困難になりつつあります。
一方で、統計的手法や機械学習を活用した新しい測定技術が発展し、プライバシーを保護しながらも精度の高いインクリメンタルリーチ測定が可能になってきました。
●広告主の投資対効果(ROI)への関心の高まり
デジタルマーケティングの普及により、広告効果の可視化への期待が高まっています。
特に、「このメディアに投資することで、どの程度の新規顧客を獲得できるのか」という具体的な成果を示すことが求められており、インクリメンタルリーチはその答えを提供する重要な指標となっています。
2.インクリメンタルリーチの測定方法
データ活用の基本フロー
インクリメンタルリーチを正確に測定するためには、体系的なデータ活用のフローが必要です。ここでは、実践的な測定プロセスを段階別に解説します。
ステップ1:目標設定とKPI定義
まず、何を基準メディア(ベースメディア)とし、どのメディアのインクリメンタルリーチを測定するかを明確に定義します。一般的には、最もリーチの大きいメディアをベースメディアとし、新しいメディアのインクリメンタルリーチを測定することが多くあります。
設定すべき項目:
・ベースメディアの選定(例:テレビCM)
・測定対象メディアの選定(例:YouTube、Instagram、DOOH(デジタルOOH))
・測定期間の設定(例:キャンペーン実施の4週間) ターゲットオーディエンスの定義(例:18-49歳男女)
ステップ2:データ収集と統合
各メディアから取得できるデータを統合し、分析可能な形に整備します。この段階では、データの品質と整合性の確保が重要です。
必要なデータ例:
・各メディアの広告配信データ(インプレッション、リーチ、フリークエンシー等)
・オーディエンスの属性データ(年齢、性別、地域等)
・接触タイミングデータ(いつ、どのメディアで接触したか)
・可能であれば、行動データ(購入、来店、検索等)
ステップ3:重複除去とユニークリーチ算出
統計的手法やマッチング技術を用いて、メディア間の重複を特定し、ユニークリーチを算出します。この工程が最も技術的で重要な部分となります。
主な手法:
・決定論的マッチング:同一IDでマッチング(ログインユーザーなど)
・確率論的マッチング:統計的手法による推定マッチング
・パネルベース測定:代表性のあるパネルデータを活用した推計
ステップ4:インクリメンタルリーチの算出と検証
各メディアが追加で獲得したユニークユーザー数を算出し、その妥当性を検証します。
複数の手法で算出結果を比較し、信頼性の高い数値を導き出すことが重要です。
算出方法:
インクリメンタルリーチ = 総ユニークリーチ – ベースメディアリーチ
インクリメンタルリーチ率 = インクリメンタルリーチ ÷ 総ターゲット人口 × 100
主要な測定ツール・指標
・Googleの測定ソリューション
・Meta(旧Facebook)のBrand Survey
・第三者測定ツール
・独自開発の測定システム
インクリメンタルリーチが注目されている昨今では、複数のデータソースを統合した独自の測定システムを構築するケースも増えています。
これにより、よりカスタマイズされた精度の高い測定が可能になります。
インクリメンタルリーチの測定は単なる数値の把握にとどまらず、具体的な投資判断や戦略立案に直結する重要な取り組みとなっています。
正確な測定により、限られた予算を最も効率的に活用し、新規オーディエンスの獲得を最大化することが可能になるのです。
3.インクリメンタルリーチで広告効果を高めるメディア
ブランドの一貫性を保ちながらも、各メディアの特性と新規オーディエンスの特徴に合わせたメディアを選定することが重要です。
これによりメディア間でのシナジー効果を最大化できインクリメンタルリーチは「ただの追加到達数」ではなく、売上やリード獲得に直結する差別化要素となります。
クロスメディアのプランニングにおいて弊社とNRIの共同検証においては、「TV×WEBの2メディア」よりも、同じ予算内で「TV×WEB×交通 の3メディア」に出稿したほうがKPI(生活者全体の購入意向)の押し上げ効果は高く、その開きは1.12倍でした。
またZ世代をターゲットにしたシミュレーションでその開きは1.30倍まで拡大し、若年層をターゲットにした際の3メディア展開の有効性が明らかになった検証結果となりました。

出展:ジェイアール東日本企画と野村総合研究所が共同で「デジタル時代におけるメディアミックス」を検証
https://www.nri.com/jp/news/newsrelease/20220518_1.html
この検証結果が示すのは、テレビCMやWeb広告だけではリーチできないオーディエンス層が、交通広告という接点を加えることで効率的に獲得できるということです。
通勤・通学の移動時間中、駅構内、電車内など、生活者が必ず通過する場所での広告接触は、自宅でのテレビ視聴やスマートフォンでのWeb閲覧とは異なる接触機会となります。
インクリメンタルリーチを最大化するなら、DOOH(デジタルOOH)が効果的
DOOHが、現代のインクリメンタルリーチ戦略に効果的な選択肢となります。
従来の交通広告と比較して、DOOHには以下のようなメリットがあります。
1. 精緻なターゲティングが可能
DOOHの最大の強みは、時間帯、曜日、天候、さらには視聴者属性に応じた広告配信が可能な点です。
たとえば、平日の朝7-9時は通勤層向けのビジネス関連広告、週末の昼間はファミリー層向けのレジャー関連広告といった形で、最適なメッセージを最適なタイミングで届けることができます。
これにより、テレビCMやWeb広告とは異なる生活シーンでのリーチが可能になり、「これまで到達できなかった新規オーディエンス」の獲得につながります。
2. リアルタイムでの効果測定が実現
従来の屋外広告では「どれだけの人が見たか」を正確に測定することは困難でした。しかしDOOHでは、カメラセンサーやモバイルデータとの連携により、視認者数、視認時間、さらには広告接触後の行動変容まで測定可能です。
これは本記事で解説してきたインクリメンタルリーチの測定において非常に重要なポイントです。テレビCM、Web広告、そしてDOOHの3メディア間での重複と新規リーチを定量的に把握できるため、本当の意味での効果検証とPDCAサイクルの実現が可能になります。
3. テレビCM・Web広告の映像素材を効率的に活用
DOOHのもう一つの大きなメリットは、すでにテレビCMやWeb広告用に制作した動画素材をそのまま、あるいは最小限の編集で使用できる点です。
通常、メディアごとに新たなクリエイティブを制作すると、コストと時間がかかります。
しかしDOOHはデジタルフォーマットであるため、既存の15秒CM、30秒CM、あるいはYouTube広告で使用している動画をそのまま配信できます。
これにより、ブランドメッセージの一貫性を保ちながら、制作コストを抑えつつクロスメディア展開が実現可能です。
4. テレビCMともWebともかぶらない独自のリーチ層を獲得
最も重要なポイントは、DOOHがテレビCMやWeb広告とは根本的に異なる接触機会となることです。
実際、前述の弊社とNRIの検証でも、Z世代での効果が1.30倍と特に高かった背景には、若年層の生活動線上に確実に存在する交通広告(特にDOOH)の接触効果が大きく寄与していると考えられます。
DOOHで実現する真のインクリメンタルリーチ戦略
インクリメンタルリーチを最大化する戦略において、DOOHは単なる「3つ目のメディア」ではありません。
テレビCMで幅広いリーチ、Web広告で興味関心層にリーチ、そしてDOOHで生活動線上の新規オーディエンスへリーチでき、網羅的にリーチすることができるようになります。
限られた予算の中で最大限のインクリメンタルリーチを獲得するには、DOOHを活用することが非常に効果的となります。
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4.インクリメンタルリーチを最大化するポイント
インクリメンタルリーチの最適化は、一度測定して終わりではありません。「測定→分析→改善→再測定」のサイクルを継続的に回すことで、徐々に精度を高めていくことが重要です。
1. 実施後と中長期的な効果測定
インクリメンタルリーチの効果測定は季節要因、競合の広告出稿状況、消費者のメディア利用習慣の変化など、さまざまな外部要因が結果に影響を与えます。
テストを重ねることで、「たまたま良かった」のか「再現性のある成功パターン」なのかを見極めることができます。
また四半期ごとや半期ごとに定点測定を行うことで、競合の新しいメディアへの参入や、消費者のメディア利用習慣の変化についても捉えることができるようになり、「いつ、どのメディアの効率が落ちてきたか」を早期に発見でき、迅速な対応が可能になります。
2.成功パターンの把握
何度もテストを繰り返すと、さまざまな発見があります。これらを記録し、将来のキャンペーンに活かせる成功パターンの把握をしましょう。
| ターゲット層 | 最適メディアミックス | インクリメンタルリーチ | 備考 |
| 30代男性 | TV 50% + Web 25% + DOOH 30% | +15% | 通勤時間帯のDOOHが効果的 |
| 20代女性 | TV 40% + Web 30% + Instagram 25% | +12% | Instagram連動が効果的 |
| 50代全般 | TV 60% + Web 20% + DOOH 20% | +8% | Web比率を上げても効果が低い |
このような形でデータを蓄積していくことで、次回以降のキャンペーン設計時に「このターゲットなら、このクロスメディアが効率的だ」という判断が迅速にできるようになります。
そしてインクリメンタルリーチを単なる測定指標ではなく、継続的な広告効果最大化のためのマネジメントツールとして活用することが可能になります。
まとめ
インクリメンタルリーチは、現代のマルチメディア環境において欠かせない測定指標です。
従来の単純なリーチ測定では見落とされがちだった、各メディアの真の価値を正確に評価することで、より効率的な広告投資が可能になります。
重要なのは、測定だけで終わらせず、得られたインサイトを実際の戦略設計と継続的な最適化に活用することです。
ターゲット設定、クリエイティブ戦略、予算配分、そしてテスト&改善サイクルの各段階でインクリメンタルリーチの視点を取り入れることで、広告効果の最大化を実現できるでしょう。
今後も技術の進歩とともに測定精度は向上し、より詳細で実用的な分析が可能になっていくことが期待されます。
早期にこの手法を取り入れ、自社の広告運用に活かしていくことが、競合優位性の確保につながるはずです。
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