
こんにちは、ジェイアール東日本企画「キクコト」編集部です。
今回のテーマは「顧客獲得」です。
新規の顧客獲得は、あらゆる企業のマーケティング施策において非常に重要なものですが、そのアプローチの仕方は企業・ブランドのコンディションによって大きく異なり、また取りうる方法も非常に多岐にわたります。市場、競合、ユーザーなど、あらゆる状況を考慮する必要があり、マーケティング担当者の方は日々頭を悩ませていらっしゃることと思います。
今回解説する新規顧客獲得施策は、BtoCの企業もBtoBの企業もどちらも対象にしています。
・顧客獲得の基本
・顧客獲得の方法
・顧客獲得施策の事例
・顧客獲得後の育成
これらについて解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
1.顧客に“選ばれるブランド”になるには
顧客獲得広告だけだと新規獲得は行き詰まる
数年前に私がマーケティング業務を担当していた外資系企業のマネージャーが、ある日、定例会議の際にこう発言しました。
「獲得系のオンライン広告費を増やしているが、売上が想定通りに上がっていない。そして同様に問題なのは、ブランド好意度が下がっていることだ」
特別値引きキャンペーン告知など、顧客獲得系施策のみを重点的に行った結果、昨年の同施策よりも成果が上がらず、なぜかブランド好意度や認知度が落ちてしまう——
これと同様の現象は、世界シェアNo.1のこの企業に限らず、オンライン広告・デジタル広告に熱心な企業であればあるほど起こっています。ブランドの売上の多寡も関係なく、その企業の成長段階・成熟段階を問わず、あらゆるステージで起こり得る事象です。
非常によくある現象であるだけに、かえってこのマネージャーの発言は大変示唆的でした。
このコラムの結論は、このマネージャーのコメントから導かれ、実施すべき対策にほぼ集約されます。
すなわち、
「新規の顧客獲得のためには、直接的に今すぐ顧客を獲得するための施策と、認知・ブランド価値を高める施策の両方が必要」
ということです。
どのようなマーケティングモデルであっても、顧客のカスタマージャーニー上、購買は認知や理解などの過程を経た後に来ます。


インターネットとデジタル技術の普及により、消費者は膨大な情報の中から自分に最もフィットする商品やブランドを選べるようになりました。検索エンジン、口コミサイト、SNS、動画レビューなど、購入前に情報収集するチャネル・方法は多岐にわたります。
またECサイトにおけるレコメンド機能をはじめ、顧客側が探すだけでなく、売り主の方がユーザーに提案をする機会も膨大になっています。選択肢が増えたことにより、見込み顧客は迷いやすくなっています。
このような情報過剰の状況においては、獲得系の広告だけ行っていても新規顧客は増えません。一時的に成果があっても、効果が行き詰るタイミングがどこかでやってきます。
以下、本コラムは、「まさに今すぐ顧客を獲得するための施策」と「ブランディング(=ブランドを選ぶ理由を高める)」の双方について解説していきます。
最も重要なのは「ターゲット」
新規顧客の獲得は、ただそれ単独の施策として成り立つものではなく、自社のマーケティング方針の延長線上にあるため、根幹となる方針をきっちり固めなくてはなりません。
とはいえ企業のマーケティングには、企業にまつわるあらゆる事象が関係しますので、本コラム一稿でそのすべてを考慮するのも無理がある話です。そのため論点を広告・プロモーションに絞って説明したいと思います。
広告・プロモーションにおいて最も重要なのはターゲットです。
言い換えれば「誰が顧客なのかを知ること」です。誰に向かって発信しているのか不明瞭な広告は、出稿するメディア、クリエイティブ表現、適切な広告投下量など、すべてが曖昧になり、その結果、広告で効果が出ているのかどうかも分からなくなります。
自社のターゲットを確認する方法として、SWOT分析やSTP分析などのフレームワークが有効です。
このうちSTP分析について簡単に説明します。これはマーケティング研究者のフィリップ・コトラーが提唱したフレームワークで、3つのワークを示す英単語の頭文字を取ったものです。基本的には、この文字の順番に分析を行いますが、STPの3要素は互いに関連しています。行きつ戻りつ分析しましょう。

S:セグメンテーション(Segmentation)
セグメンテーションとは「市場の細分化」を意味し、ターゲットを決める前に、まず市場に存在するユーザーの属性を分類します。
T:ターゲティング(Targeting)
上述で分類したセグメンテーションから自社のターゲットとするユーザーを決めていきます。通常、ターゲットはセグメンテーションで導いた分類の掛け合わせとなります。
どのターゲットに競合優位性や拡大可能性といったチャンスが最もあるか、を考えます。ターゲティングで絞った市場でマーケティング活動を行うことで、施策内容が明確になり、費用や労力や時間というコストを効率的に活用でき、収益の最大化につながります。
P:ポジショニング(Positioning)
ポジショニングとは、自社やその商品・サービスの「立ち位置を明確化」することです。競合他社と比較してどこが優位なのかを見定めたり、あるいは比較競争に巻き込まれない独自の役割を見つけます。
STP分析以外のSWOT分析や、そのほかの分析方法、ターゲットの設定の仕方については、以下のコラムでより詳しく解説していますので、参考にしてください。
ペルソナ設定でターゲットを具体的な存在にする
STP分析ほかフレームワークによる分析を行えば、自社商品・サービスのターゲットはかなり明確になります。それでも、具体的なマーケティング施策を検討する際には関係者間でターゲットの解釈にブレが生じる危険性があります。
その場合はターゲットのペルソナ設定を行います。
マーケティングにおけるペルソナとは、「自社の商品・サービスを使用する典型的な顧客像」のことです。ペルソナ設定では、性・年代や年収や居住エリアや家族構成や職業などのデモグラフィックデータだけでなく、趣味嗜好や行動パターンや価値観などのサイコグラフィックデータについても詳細に設定し、「いかにも自社商品・サービスを利用しそうで、実在しそうな一個人」を設定します。
これを作り上げることで、顧客が接触するメディアや、好む表現、購買に至るまでの思考などが想定できますので、マーケティング戦略を設計しやすくなります。
ペルソナとそれを活かしたマーケティングについては以下のコラムで詳しく紹介していますので、作り方や活用施策を知りたい方はぜひご覧ください。
2.具体的な顧客獲得方法 今すぐ実践したい顧客獲得マーケティング施策
ここからは具体的に新規顧客を獲得するための方法・メディアについて紹介していきますが、これは非常に多岐にわたります。
新規顧客の目に触れて商品の購買意欲を促進するようなものはすべて新規顧客獲得方法となりえますので、あらゆるメディアが対象になります。すべての例を取り上げると、このコラムではあまりにも長大になりすぎます。
ここではその獲得経路を、トリプルメディアと呼ばれる3分類のメディア+それ以外のリアル施策に分け、代表的なものと、それを利用した施策例を紹介したいと思います。

ペイドメディア(Paid Media)
ペイドメディアは、所定の費用を支払って利用するメディアです。
支払った費用に応じて、ターゲット層に広告露出が可能で、費用対効果が最も計算しやすく、即効性があるメディアです。
主なペイドメディア
リスティング広告
ディスプレイ広告
動画広告
記事広告
雑誌広告
新聞広告
ペイドメディアの施策例:
・JRE Ads
新規顧客獲得施策におけるペイドメディアの役割は、オウンドメディア、特にLPに顧客を誘引することです。
当社の施策として「JRE Ads」を紹介しましょう。
JRE Adsとは、JR東日本グループが保有する、移動や購買などのユーザーデータを運用型Web広告に活用するサービスです。
JR東日本グループが管理・運営するポイントサービス「JRE POINT」に登録されたユーザーのデータを基盤に、そのユーザーの鉄道や改札でのSuica利用データや、ECサイト「JRE MALL」での買い物履歴からユーザーのターゲティングが可能です。

JRE Adsの主要なメリットは以下の2点です。
POINT 1 Suicaの移動履歴=確定データを用いた精度の高いエリアターゲティング
一般的なジオターゲティング広告は、端末や提携アプリのGPS情報を基にした「推定データ」でターゲティングを行いますが、JRE Adsでは、交通系 IC(Suica)の乗降履歴、つまり「確定データ」を基に配信を行うため、駅利用者へのWeb広告としては非常に精度が高い施策となります。

POINT 2 JRE POINTと連携するJR東日本関連サービス利用履歴を活用した独自のターゲティング
JRE Adsはエリアターゲティングだけでなく、ユーザーの属性・行動履歴を基にしたターゲティングも可能です。
JRE POINTと連携するJRE MALL、えきねっと(新幹線などの乗車券・指定席のネット予約サービス)などのJR東日本グループのサービス利用履歴から顧客・ユーザーをセグメントし、リアルなターゲットの行動に沿った広告施策が可能です。外部広告媒体のセグメントとの掛け合わせも、もちろん可能です。

JRE Adsの活用した新規顧客の獲得の仕方や事例、各種の実施条件などの詳細は以下のダウンロード資料でぜひご確認ください。
オウンドメディア(Owned Media)
オウンドメディアとは自社で運営するメディアのことで、主に以下が該当します。
オウンドメディアの例
コーポレートサイト
ブランドサイト
コンテンツページ
ランディングページ(LP)
いわゆる「公式サイト」と呼ばれるもの全般です。商品の特長など、顧客に商品理解を促すコンテンツを掲載します。
オウンドメディアの施策例:
・コンテンツマーケティングによるSEO集客の強化
オウンドメディアは、基本的にそれだけでは集客機能はありませんので、ここに顧客を流入させる工夫が必要です。ペイドメディアなどによって集客することになりますが、メディア投資以外の方法としてSEO(Search Engine Optimization)が重要です。
SEOは、新規顧客を自然に引き寄せるための最も基本的な施策です。購買意欲の高い見込み顧客に向けて、「◯◯ 選び方」「◯◯ 効果」など、具体的な検索キーワードに対して役立つ情報を発信すれば、信頼性と専門性をアピールできます。
そのために、オウンドメディア内にそのような検索キーワードで上位に挙がってくるようなコンテンツを作成します。
SEOコンテンツのポイントは、「見込み顧客の悩みや疑問に応える」ことを最優先にすること。そのうえで、キーワード設計・内部リンク・構造化データなどの基本をしっかり押さえることで、中長期的に安定した新規顧客獲得が見込めます。
・LP(ランディングページの)工夫
ペイドメディアで誘引した顧客が訪れ、購買につなげるページがLP(ランディングページ)になりますが、これの構成・内容が顧客獲得成功のカギです。
LPは以下のようなコンテンツで構成します。

LPでは、見込み顧客に興味付けをし、商品特長を理解してもらい、魅力的なオファー(購入条件)を提示する、という流れをわかりやすい構成で提示することが大切です。
LPの構成例:
■ファーストビュー(見込み顧客を引き付けるコンテンツの凝縮)
・課題提起「毎朝、スキンケアに30分もかけていませんか?」
・ベネフィット「1日1回塗るだけで肌にハリとツヤ」
・実績「利用者の90%が効果を実感(自社調べ)」
など
■コンテンツエリア
・実績評価
・商品特長、ベネフィット訴求
・説得コンテンツ(冒頭で掲げた「悩み」を解決する商品であることを端的に説明)
・商品の強みと他社との違い
・社会的証明:レビュー、受賞歴、第三者評価
など
■オファーエリア
・CTA(Call to Action):購入、登録への導線
さらに、獲得率を上げるために、限定オファーやキャンペーン情報を盛り込むのが効果的です。「今だけ◯%OFF」「先着100名限定」など、見込み顧客に“行動する理由”を与えましょう。
アーンドメディア(Earned Media)
アーンドメディアとは、PRやパブリシティによるWeb情報サイトやTV番組や紙媒体掲載、SNSやブログによる情報掲載など、企業と直接関わりがない第三者が発信するメディアのことです。
(SNSやブログなど、個人による発信メディアを「シェアードメディア」とカテゴライズして、3種ではなく4種に区別する分類もあります)
アーンドメディアは、特に消費者が発信するものの場合、ほかの2つのメディアと異なり、掲載される情報が企業側でコントロールができません。しかしそのため「第三者のリアルな意見」となり、かえって強い説得力を持つメッセージとなります。
主なアーンドメディア
SNS(X、Instagram、TikTok、Facebookなど)
ブログ
口コミ・レビューサイト
YouTube
パブリシティ
プレスリリース
取材・報道
アーンドメディアの施策例:
・インフルエンサー・レビューを活かした信頼獲得術
「初めて知ったブランドの商品をすぐに購入する」ことに抵抗を感じるユーザーは多いです。そこで強力な後押しとなるのが、第三者の声=インフルエンサーや口コミレビューです。
当事者ではなく外部の客観的評価が新規顧客獲得には効果的です。また、ペイドメディアだけでは賄いきれない認知拡大の効果もあります。
美容系、ライフスタイル系など、ブランドに合ったインフルエンサーに使用感を伝えてもらいましょう。できるだけリアルな感想を発信してもらうのがこの施策のコツです。
ただし、インフルエンサーに商品・サービス紹介を依頼する場合は、広告であることを明示してもらう必要があるので注意しましょう。
詳細は以下の消費者庁ホームページなどで確認してください。
消費者庁「令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/stealth_marketing/
また、比較サイトやランキングメディアに情報提供することで、検索経由でブランドと接点を持つ機会も増やせます。「おすすめ◯選」「初心者向けまとめ」といったキーワードで上位表示されることで、“すでにニーズがあるユーザー”を効率よく取り込むことが可能です。
UGC(ユーザー生成コンテンツ)の活用
一般ユーザーによる、商品に関するSNS投稿やレビューをUGCと呼びますが、これを公式サイトやLPに掲載することで、信頼性と親近感を両立できます。
自社ECサイトであれば、顧客からの★評価やレビューを見やすく配置し、企業側からの返信を丁寧に返すことで誠実さもアピール可能です。
「誰かが使って良かったと言っている」ことは、顧客の説得・納得という観点では広告よりも強力です。顧客の声を積極的に集めて活用する仕組みづくりが大切です。
以上、トリプルメディアの役割をまとめると、このような関係になります。

リアル施策
これまで紹介したトリプルメディアとその施策以外にも、新規顧客獲得のために効果的な方法があります。それがリアル施策・リアルイベントです。
オンライン・オフラインのメディアを利用して情報を届けるのではなく、顧客に直接に現実空間でブランドを体験してもらう施策です。
主なリアル施策
イベント
サンプリング
ポップアップショップ
リアル施策の代表例:
・体験型イベント、ポップアップストア
デジタル広告やSNSが獲得広告・プロモーションの主流となるなかで、体験型イベントやポップアップストアは“記憶に残るブランド接点”をつくる貴重なチャネルです。商品を実際に手に取り、スタッフとの対話を通じて体験できる機会は、オンラインでは得られない強い印象を顧客に与えます。
例えば、楽天グループ株式会社が運営するショッピングSNS「ROOM」は、ショールーミング型(商品を購入する前に、実店舗で商品の効果・性能などを確認したうえで、オンラインで購入する購買行動)のポップアップストアを期間限定で「新宿マルイ本館」にオープンしました。
このポップアップストアでは、「楽天市場」で販売される商品の中から、「ROOM」インフルエンサーの3人がセレクトしたファッションやインテリア、キッチン用品などの商品と、「楽天市場」出店店舗と「ROOM」インフルエンサーとのコラボレーションによる「楽天市場」限定商品を展示しました。
顧客は、「楽天市場」で販売される商品を店頭で実際に手に取り、比較・検討し、商品購入時には、店頭に展示するQRコードをスマートフォンで読み取ることで、「楽天市場」の各店舗の商品ページに遷移し、商品の決済ができる、という仕組みです。
「オンラインで認知し、オフラインで購入」「オフラインで試して、オンラインでリピート」などの消費行動は、顧客にとって当たり前になっています。それを踏まえた、オンラインとオフラインを繋げ、顧客体験を向上させるマーケティング方法を「OMO(Online Merges with Offline)マーケティング」と呼びます。この事例はまさにその好例となります。

OMOマーケティングについて詳しく知りたい方は以下のコラムを参考にしてください。
口コミ・紹介
また、メディア利用でもなく、リアル施策とも違う、古くからある新規顧客獲得方法が、「口コミ・紹介」です。
信頼性の高い獲得チャネルとして、昔ながらの“口コミ”は今も非常に効果的です。既に顧客になっている人からの紹介は、最初から高い信頼を伴っているため、成約率が高いという特長があります。アーンドメディアによる「第3者の評価」と少し似ていますが、信頼する人から直接推薦されることはさらに強い説得力を持ちます。
口コミは顧客の間で自然に発生するものでもありますが、企業側から積極的に促す方法もあります。
たとえば、携帯通信事業「楽天モバイル」では、紹介者にも被紹介者にも特典がある「紹介キャンペーン」を展開。口コミを通じた自然な広がりが、新規会員数の増加につながっています。

(2025年5月時点で実施中)
紹介を促進するための仕組みとして、LINEやアプリを使った紹介リンク発行などを導入すると、顧客側のハードルも下がります。
3.新規顧客に「知ってもらう」施策 認知獲得・理解促進マーケティング方法
これまでの説明は顧客獲得系の施策を中心にしてきましたが、このコラムの冒頭で述べたように、知らないもの・興味のないものを人は購買しません。
そして、知ってもらうとしても巷間には様々な情報があふれかえっているので、その中で人の目を引く施策を実施する必要があります。いわゆるマーケティングコミュニケーションにおける、購買の前段階の施策です。最終的な顧客獲得だけを狙っても、顧客はなかなか増えません。
また、日用品や食品などの、顧客単価が低くユーザー数(ターゲット)が非常に多い商品・ブランドの場合、顧客獲得系の広告・施策はコストが見合わず非効率です。そのような商材は、まずブランドを知ってもらうこと・ブランドに対する興味喚起を優先することが結果的に新規顧客の獲得に繋がります。
さらに、既存ターゲットに同じアプローチをしていても、顧客を増やすことは難しい場合があります。その場合は新たなターゲット層を見つけて宣伝することで突破口が開けることも多いです。
以下の新規顧客の認知・関心を得るための施策事例を参考にしてください。
・キリンビール「晴れ風」
大規模認知獲得施策の本命、テレビCMによる認知獲得施策です。
新商品の発売タイミングは、当然ながら既存顧客はまだ存在せず、新規顧客を大量に獲得する必要があるため、あらゆる商品プロモーションスケジュール上、認知獲得を最も必要とするタイミングです。
多額の投資を行った新しい価値を持つ商品も、存在を知ってもらえなければ誰にも買ってもらえません。また一般消費財の場合、発売時に流通店舗に配架されるかどうかが非常に重要になり、そのためにはメーカーが流通側にどれだけの認知施策を実施するか約束する必要もあります。
キリンビール「晴れ風」は、完成したテレビCMなどのマーケティング施策を見ると、「この商品のターゲットが誰で、なぜこのような表現になったのか」が非常にわかりやすい施策です。
この商品のターゲットは「アルコール飲料を嗜む老若男女」で、実質的にいわゆる「オールターゲット」です。食品・飲料の多くがこのようなオールターゲット商材で、非常に多くの人が顧客となる可能性がある半面、買う人が決まっていないため、特定の層の興味を喚起する施策で効率よく認知を拡大する、というマーケティング戦略の常道がやりづらいのが難しいところです。
そこで「晴れ風」がとった方法は、ターゲットを可能な限り網羅するべく、CM出演タレントを複数起用することでした。今田美桜さんと目黒蓮さんは若い男女をターゲットとし、内村光良さんと天海祐希さんはそれ以上の年齢の男女をターゲットとしてキャスティングされたタレントです。
そしてそのような豪華な出演者の下、大規模なメディア展開を行いました。結果は奏功し、発売後約3カ月で、年間販売目標の約7割となる300万ケースを販売しました。ターゲットを絞り込むのが難しいなら全部含んだ施策にしてしまえ、というパワフルな認知施策です。

・ワークマン女子
ワークマンと言えば、かつては働く男性から絶大な支持を得る作業服ブランドでした。しかし近年そこに留まらず、ブランドの射程範囲を次々に拡大しており、仕事だけではなくプライベートでも着用されるカジュアルブランドに成長しました。
その中で立ち上げられたのが「ワークマン女子」ブランドです。ワークマンの顧客の中に女性が少なからず含まれてきたことを見出し、2020年に立ち上げ、ブランドとして成長させました。ここで成功をおさめたことで、このブランドをさらに男性ニーズに逆展開し、2025年には「ワークマンcolors」と屋号を改め、順次各店舗置き換えられていく計画です。
ワークマンの認知施策では、各種広告やSNSに加えてPR戦略がうまく機能しています。常にブランドの形を変化させ成長させていくワークマンのマーケティング施策は、各種記事に取り上げられやすく、着々と認知と利用経験を拡大させています。
・大塚製薬「サウナといえばイオンウォーター」
大塚製薬は、サウナ愛好者(サウナー)をターゲットに「サウナといえばイオンウォーター」というコンセプトでマーケティングを展開しています。
・オウンドサイトでサウナの入り方などの情報発信
・サウナをテーマにした動画や楽曲の配信
・SNS上でのハッシュタグキャンペーン
・スパ・サウナ施設とのタイアップ
など、継続的にサウナーたちとのコミュニケーションを図ってきました。
その結果、イオンウォーターはサウナで失われた水分やイオンを効果的に補給できる飲料として広く認知され、「サウナといえばイオンウォーター」というポジションを築いています。

このような「サウナー」など、特定ニーズ、共通の趣味や関心を持つ消費者集団(=トライブ)をターゲットにしたマーケティング方法はトライブマーケティングと呼ばれ、新規顧客の認知獲得に効果を発揮します。
トライブマーケティングについて詳しく知りたい方は以下のコラムを参考にしてください。
・ギンビス「たべっ子どうぶつ」
ロングセラーブランドにとって、新規顧客の獲得はいつも非常に難しいものです。競合との厳しい競争を制して長い期間生き残り、多くの固定顧客を得ても、常に新しい顧客を獲得できなければ衰退していきますし、ましてやブランドをさらに成長させるというのは大変難しいことです。
ビスケットブランドの「たべっ子どうぶつ」はそのようなロングセラーブランドであり、近年、「新規顧客の獲得」と「顧客の離脱防止」を共に達成し、発売から40年以上を経て成長しています。
子ども向けのお菓子「たべっ子どうぶつ」が行ったのは、ターゲットの拡大でした。商品の持つあたたかくてかわいいイメージはそのままに、各種のイベントやポップアップショップ、ライセンスグッズ販売など、主に大人の女性に愛好されるための施策を次々に実施しました。結果、成人女性の顧客が増え、子供のころにたべっ子どうぶつを食べた女性顧客が母親になって子供とともに商品を楽しむというサイクルを活性化させています。
新規顧客の増加とともに、「大人になって食べなくなってしまう」という商品離脱が発生しにくくなり、顧客のLTV(生涯価値)を上昇させることに成功しています。

・いすゞ自動車 「とらたんず×とれたんず」
いすゞ自動車が最近実施した新規顧客獲得施策は、子どもおよびファミリーに向けてのプロモーションです。

当社ジェイアール東日本企画の制作によるJR東日本の新幹線キャラクター「とれたんず」と、いすゞ自動車がコラボして、子ども向けキャラクター「とらたんず」が誕生。人や物を運ぶ仲間として、いっしょに子どもファンにアピールしています。
新規顧客獲得に、キャラクターコンテンツを活用したプロモーションは非常に有効です。これまでコミュニケーションができていなかった層であっても、キャラクターのファン層がそのまま新規顧客になってくれるからです。
このいすゞ自動車の例のように、これまで大人向けのブランドだったものが子ども向けのコミュニケーションを行って認知を獲得する、などのターゲット拡大を可能にします。
マーケティングコミュニケーション施策の基本は、「親和性」と「意外性」で、それを兼ね備えた施策が話題化および新規顧客獲得につながります。この例でいえば、乗り物という共通点に納得感がありつつも、硬派で大人のイメージのトラックに子ども向けのコンテンツがコラボすることで意外性をもたらしました。
特設サイト
https://www.isuzu.co.jp/toratans_toretans/
とれたんず公式youtube
https://www.youtube.com/@toretans
この他、当社では話題の映画・アニメ・ゲームIPと企業・ブランドのコラボレーションによる認知獲得施策を数多く実現させています。
また、駅構内や車内広告、デジタルサイネージなど、JR東日本が持つ多様な広告媒体を活用して、IPコラボ商品の認知度を高めるメディア展開のお手伝いもしてきました。キャラクター活用マーケティングについての当社実績資料は、以下からご覧いただけます。
4.新規顧客との関係を「短期」で終わらせないために
新規顧客が獲得できたらただちに考慮しなければならないのは、その顧客との関係を持続的なものにすることです。
苦労してせっかく獲得できた顧客が、一度の購入や体験で関係が断たれてしまって総顧客数が増えないということになれば、非常に非効率です。顧客のLTVを増やすべく、顧客とブランドの関係をどう深めていくか、工夫しましょう。
リピート特典やメッセージ配信
顧客を「1回買って終わり」ではなく、「何度も選んでくれる存在」に育てるには、定期的なコミュニケーション設計が欠かせません。
たとえば、購入履歴・閲覧履歴・アンケート回答などをもとに、以下のようなセグメント配信が可能になります。
・初回購入者向け「2回目を促すクーポン」
・1ヶ月購入がない顧客に「リマインドメッセージ」
・特定カテゴリの購入者に「関連商品紹介」
などです。
また、ポイント制度や会員特典の設定も効果的です。購入するたびに特典がある、レビューでポイントが貯まる、などの設計で継続的な関与を促します。
LINE公式アカウントやメールマーケティングツールを使って、顧客・ユーザーにとってタイミングがよく、内容が relevant(関連性の高い)な情報提供を行いましょう。
顧客の声を商品・サービスに反映する仕組み
顧客との関係性を深めるうえで、「聴く姿勢」を持つブランドは信頼されやすくなります。
LTVの向上には「継続購入」だけでなく、顧客の「ファン化」も重要です。定期的な情報発信や顧客限定のイベントなどを通じて、顧客の“企業とつながっている”という感覚を育てることがリピートにつながります。
具体的には、
・購入後アンケートや満足度調査を実施
・顧客の口コミやレビューから改善点を抽出
・SNSのコメントやDMに丁寧に対応
こうした“声の拾い上げ”を社内で定期的に共有し、実際にサービスや商品改良に活かす仕組みを作ることが大切です。
たとえば、常に売上トップ層に位置するスマートフォンのソーシャルゲームでは、絶えず顧客・ユーザーの声を収集しています。
ソーシャルゲームは買い切り型ではなく長期間にわたって顧客・ユーザーに遊んでもらう必要があるため、常にコンテンツをストーリーやクオリティ面で更新していくことが求められています。顧客・ユーザーの声を聞いてその希望にかなったブラッシュアップを続けることができるタイトルが、結果、顧客の離脱を防ぎつつ新規顧客を獲得し、長期にわたって成功を収めています。
顧客の声はマーケティングの宝です。これを生かす企業は、結果的に「選ばれるブランド」としての地位を確立できます。
まとめ
顧客獲得の正解は、時代や市場、商材によって変化し続けます。
しかし依然として、「信頼されるブランド」が、これからの時代において選ばれ続けるということです。
顧客獲得施策は(特にオンライン広告の場合)即効性に優れる一方で、認知施策や理解促進施策は即時の売り上げ増には結びつかないこともあります。しかし長期的に企業・ブランドの成長を考えた場合は、決して欠くことはできません。どちらか一方に偏ることなく、自社のブランド特性やターゲットに合わせて、最適な施策を選び組み合わせていきましょう。
当社ジェイアール東日本企画では、本コラムでご紹介したような、ターゲット(戦略)設計、顧客獲得広告、認知広告、ブランディング、プロモーションなど、ブランドを成長させる施策をトータルでプロデュースしています。
また、ブランドをトータルでプロデュースする大掛かりなご相談だけではなく、ご紹介した「JRE Ads」や「キャラ活マーケティング」といったソリューションを活用した個別の課題のご相談も多くの方からお問い合わせいただいております。
新規顧客獲得方法にお悩みの方は是非お気軽にお問い合わせください。