こんにちは、ジェイアール東日本企画「キクコト」編集部です。
今回のテーマは「トライブマーケティング」です。
現代のマーケティングにおいて、消費者の多様化がますます進む中で、従来のデモグラフィックデータ(年齢、性別、地域など)中心のターゲティング手法に限界が見えてきました。そこで注目されている新たな手法が「トライブマーケティング」です。
本記事では、トライブマーケティングの基本概念から、その優れた点、具体的な事例、そして実践のポイントまでを詳しく解説します。企業のマーケターの皆様が、トライブマーケティングを活用して効果的なブランド戦略を構築するための参考になれば幸いです。
1. トライブマーケティングの基本概念
◆トライブマーケティングとは
トライブマーケティングとは、共通の趣味や関心を持つ消費者集団(=トライブ)をターゲットにしたマーケティング手法です。
従来のマーケティング手法が、年齢や性別、地域などの属性に基づいてターゲットを設定するのに対し、トライブマーケティングは消費者の趣味や関心に焦点を当てます。
もともと「部族、種族」を意味する英語の「トライブ(tribe)」が語源となっており、共通の興味・関心や趣味・嗜好を持つ人同士が集まった小集団を一つのトライブと捉えます。例えば、特定の音楽ジャンルを愛好する人々や、特定のスポーツチームを応援するファンなどです。
◆デモグラだけでターゲティングできる時代は終わった
これまではデモグラフィックデータ(年齢、性別、地域など)を基にターゲットを設定する手法が主流でした。しかし、現代の消費者は多様化しており、単純な属性だけではターゲットを正確に絞り込むのが難しくなっています。例えば、同じ20代女性でも、趣味や生活スタイルは個人個人で大きく異なるためです。
デモグラフィックデータが依然として重要な情報であることは変わりませんが、それだけでは消費者の行動やニーズを十分に理解することはできません。そこで注目されているのがトライブマーケティングのような手法です。
◆ペルソナマーケティングとの違い
ターゲットを絞り込むマーケティング手法として、よく使われるのが「ペルソナ」です。ペルソナとは、氏名や年齢、年収、家族構成、ライフスタイルや価値観などを、あたかも実在する人物のように詳細に設定した理想的な顧客像です。この顧客像に向けてマーケティング戦略を立てるのがペルソナマーケティングです。
トライブマーケティングとペルソナマーケティングの違いは、ペルソナマーケティングが架空の顧客像に焦点を当てるのに対し、トライブマーケティングは実在する集団にアプローチする点です。
2. トライブマーケティングが注目される背景
◆SNSの普及
SNSの普及により、この10~20年ほどで誰もが簡単に情報を発信できる時代になりました。X(旧Twitter)、Facebook、InstagramなどのSNSプラットフォームは、個人が自分の意見や情報を広く発信する手段として利用されています。これにより、一人ひとりが自分の趣味や関心について発信するという行動が一般的になりました。
その結果、特定の趣味や関心を持つ人々がSNS上で集まり、情報を共有し合うことで、数多くのトライブが形成されるようになりました。
これは企業側にとっても有益であり、これまで難しかった特定の趣味や嗜好を持つ人々をグループ分けしたり、訴求したりしやすくなりました。
わかりやすい例として、ハッシュタグを使うと簡単に特定のトライブにアプローチできます。例えば「#サ道」「#サ活」「#サウナー」などのキーワードでサウナ好きを狙うといった方法です。
このようにSNSの普及によって、特定のトライブにアプローチできるようになったことはトライブマーケティングが注目された大きな要因です。
3. トライブマーケティングの優れた点
◆ターゲット解像度が上がり、コミュニケーション精度が上がる
トライブマーケティングの大きなメリットの一つは、ターゲットの解像度が上がることです。それに伴ってコミュニケーション精度も向上します。
例えば「F1層(20~34歳の女性)」のようなデモグラだけで絞ったターゲット集団では、その中に多様なニーズ・特性が含まれるので、ターゲット全体を捉えるのが難しくなりがちです。
一方トライブマーケティングでは、特定の趣味や関心を持つ小集団に対してコミュニケーションするため、より具体的で効果的なマーケティングメッセージを届けることができます。
またトライブごとの行動データやSNSでの活動を分析することで、ターゲットの解像度をより一層高めることができます。トライブ内の人々の関心が何に向いているのかを分析すれば、トライブごとに最適なコミュニケーションプランを設計・実行することが可能になります。
◆内からの情報拡散が期待できる
トライブマーケティングのもう一つの大きなメリットは、内からの情報拡散が期待できる点です。トライブ内のメンバーは共通の関心を持っているため、情報が自然に拡散されやすくなります。例えば、SNSでのシェアや口コミを通じて、トライブ内で情報が広がり、結果として多くの人々にリーチすることができます。
この自発的な情報拡散が起きるのがトライブマーケティングの重要なポイントです。
加えて、消費者同士のコミュニケーションを促進することで、ブランドに対する信頼感や親近感を高める効果も期待できます。例えば、ファン同士が交流できる場(オンラインコミュニティなど)を提供することで、トライブ内での情報共有が活発になり、ブランドへのロイヤリティ向上に繋がるケースもあります。
4. トライブマーケティングの事例
事例➀:KINTOの「Vintage Club by KINTO」
車のサブスクリプションサービスを提供するKINTOは、旧車(ヴィンテージカー)好きのためのコミュニティを形成し、深いエンゲージメントを築くことに成功しています。
KINTOは旧車愛好者トライブに向けて、旧車の魅力やメンテナンスに関する知識を発信すると共に、ユーザー同士が情報交換できる場を設けています。またSNSフォロワー限定の試乗会やイベントを開催して、参加者がその体験をシェアすることを促しています。
所有するハードルが高い旧車をフックに、ブランドの認知度やロイヤリティを高めて、自社のサービスである車のレンタル・サブスクにうまく繋げた事例です。
出典:旧車を全力で楽しむコミュニティ「Vintage Club by KINTO」を始動!
事例➁:大塚製薬の「サウナといえばイオンウォーター」
大塚製薬は、サウナ愛好者(サウナー)をターゲットに「サウナといえばイオンウォーター」というコンセプトでマーケティングを展開しています。
・オウンドサイトでサウナの入り方などの情報発信
・サウナをテーマにした動画や楽曲の配信
・SNS上でのハッシュタグキャンペーン
・スパ・サウナ施設とのタイアップ
など、継続的にサウナートライブとのコミュニケーションを図ってきました。
その結果、イオンウォーターはサウナで失われた水分やイオンを効果的に補給できる飲料として広く認知され、「サウナといえばイオンウォーター」というポジションを築いています。
出典:・大塚製薬株式会社HP
・【大塚製薬「ポカリスエット イオンウォーター」】いい汗かいてヤなこと全部サよウナら!3月7日“サウナの日” に「サよウナらプロジェクト」発表!
5. トライブマーケティング実践のポイント
◆ターゲットにするトライブの抽出・分析
トライブマーケティングを成功させるためには、ターゲットにするトライブの抽出が肝です。
・どのようなトライブが存在するのか
・自社商品・サービスはどのようなトライブに響くのか
・そのトライブは何を求めているのか(どんなニーズ・課題があるのか)
といったことを、市場調査なども交え分析する必要があります。
狙うトライブを一つに絞る必要はありません。ターゲットとなり得る母集団の中にポテンシャルのあるトライブが複数あれば、複数のトライブに対して、それぞれに適したコミュニケーションを設計すれば良いのです。
◆拡散心理を踏まえた施策
トライブマーケティングでは、情報の拡散が重要な要素となります。
拡散はトライブ内の自発的なシェアや口コミによって生じるので、トライブ側の『拡散したい』という自然な欲求を引き出すための工夫が必要です。
そのためにまずは拡散のトリガーとなる心理を理解することです。
例えば「応援したい」「自慢したい」「知って欲しい」など様々なモチベーションがあるので、トライブ内で盛り上がっている情報なども分析し、どんな心理に働きかけると拡散が進むのかを考慮しましょう。
その拡散心理を踏まえて、下記のような具体的な施策に落とし込みます。
・プレゼントキャンペーン
・ファンアートコンテスト
・映像コンテンツ
・コラボ商品
・ファンイベント など
6. 「推し活」と「トライブマーケティング」の関係
◆推し活とは
推し活とは、特定のアイドルやアーティスト、キャラクターなどを応援する活動を指します。推し活は、ファンが自分の「推し」を応援するために行う様々な活動を含みます。例えば、コンサートやイベントに参加したり、グッズを購入したり、SNSで情報を発信したりすることが推し活の一例です。
推し活は、単なる趣味の一環としてだけでなく、ファン同士のコミュニケーション手段としても重要な役割を果たしています。推し活を通じて、ファン同士がつながり、情報を共有し合うことで、コミュニティが形成されます。
◆推し活とトライブマーケティングの相性
推し活とトライブマーケティングは非常に相性が良いです。推し活を行うファンは、特定のアイドルやアーティストに対して強い愛着を持ち、その活動を通じてトライブを形成します。同じ対象を推している人同士の集団ですので、これは非常にわかりやすいトライブです。
そして推し活ファンは、SNSやファン同士のコミュニティで推しの情報や自身の推し活の様子を日常的にシェアする傾向が強く、口コミや広告が自然に拡散され、バイラル効果が起きやすいのが特徴です。
※Xの公式ブログでも、最も投稿率と拡散率が高いのが「アイドル・アーティスト」のトライブであるという調査結果が示されています。
出典:Xブログ
推しの広告起用、限定グッズの販売、推しの誕生日に合わせた特別なキャンペーン実施などで、ファンの関心を引き、エンゲージメントを高めることができます。推しを介して企業とファンがつながり、長期的な関係を築くことは、自社ブランドへの忠誠心を高める効果にも繋がります。
◆推し活マーケティングはまさにトライブマーケティング
推しを介して推し活ファンとのエンゲージメントを高めるマーケティング手法=推し活マーケティングは、まさにトライブマーケティングであり、推し活マーケティングはトライブマーケティングの一形態と言えます。
「トライブマーケティング実践のポイント」でお話した、トライブの抽出や拡散心理は推し活起点で考えると、より検討しやすくなります。
※推し活マーケティングにご興味のある方は、こちらのコラムも合わせてご覧ください。
7.まとめ
トライブマーケティングは、消費者の趣味や関心に基づいてターゲットを設定することで、より深いエンゲージメントを築き、効果的なマーケティングメッセージを届けられる手法です。SNSの普及により、特定の趣味や関心を持つ人々が集まりやすくなり、トライブマーケティングの効果が一層高まっています。
本コラムで紹介した実践のポイントを参考に、トライブマーケティングを活用して、ブランドの認知度やロイヤリティ向上を図ってみてください。
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